「灘五郷」の4つの酒蔵を訪ねることに

関西の旅2日目です。ちょうど「灘の酒蔵探訪2021」が開催中でした。酒蔵や資料館が集積する「灘五郷」で、例年人気のスタンプラリーが行われていました。日本酒の飲み比べや現地でしか味わうことのできない生原酒を購入することもできるそうです。

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灘五郷は、酒造りに適した上質の酒米 (山田錦) の産地が近く、ミネラルが豊富な上質の地下水 (宮水) が湧き出ることから26の酒蔵があり、全国の約30パーセントの日本酒が製造されています。神戸市は、西郷、御影郷、魚崎郷のエリアです。

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西宮市は、西宮郷、今津郷のエリアです。両方のエリアで合わせて15の酒蔵が参加しています。お酒の製造工程や歴史などを学ぶことができるので楽しみです。

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今回は、「御影郷・魚崎郷」にある、白鶴酒造資料館、菊正宗酒造記念館、櫻正宗記念館櫻宴、浜福鶴吟醸工房の4つを巡りました。

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「白鶴酒造資料館」~等身大の人形を使った分かりやすい展示

阪神電鉄住吉駅から5分ちょっとで「白鶴酒造資料館」に着きました。大正初期に建てられ、昭和44まで酒造りを行っていた酒蔵を、昭和57年に酒造資料館としてオープンしたものです。

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正面入り口です。軒下に年「酒林」(さかばやし) があります。杉の葉を束ねたもので、2月から3月ごろに新酒ができたことを知らせるために吊るすのだそうです。当然、最初は緑色ですが、徐々に杉の葉が枯れて茶色になっていきます。まちの酒屋さんで見掛ける色ですよね。そういえば緑の酒林って見たことないです。(酒林は杉玉とも言います。)

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館内は、昔ながらの酒造工程をそのまま保存し、作業内容を再現するため等身大の人形を配置するなど、清酒が生まれるまでを立体的に分かりやすく展示しています。入ってすぐにあったのは大桶です。仕込み、発酵、貯蔵などに使うもので、杉の板をタガで固めて造ったものです。なんと一升瓶3,300本分が入るそうです。

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原料のお米を蒸す釜場 (かまば) です。甑 (こしき) と呼ばれる大きな蒸し器の上下で、摂氏百度の蒸米を取り出す作業が行われています。蔵人同士の連携プレーが大事だそうです。

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2階に上がりました。これは阿弥陀車 (あみだしゃ) です。滑車の原理を利用して、1階で見かけた大桶など大きな酒造道具を、小さな力で上げ下げすることができます。八角形の車輪と車軸で構成されたその形が阿弥陀像の光背 (こうはい) に似ていることからそう呼ばれているそうです。

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阿弥陀車の手前にあるのは放冷場です。蒸した酒米を均等に冷やす所です。北から南へ冷たい風が吹き抜けるように窓が作られていて、米を急速に冷やせるようになっています。

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麹室 (こうじむろ) です。麹菌は、カビの一種ですが、日本酒の発酵に欠かせない存在です。麹造りは高温多湿を保つため、小さくて天井が低い部屋で行われます。

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酒造りの最後の工程が醪 (もろみ)仕込みです。 酛(酒母)に麹・蒸米・水を加えて発酵させます。大桶の上に上がり、発酵調整のために撹拌します。細い縁の部分に立って行う作業は大変危険なものだったそうです。

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出来上がった清酒は厳選された吉野杉の四斗樽に詰めて出荷されます。銘柄を入れた藁菰 (わらごも) を樽に巻き付けていますが、もともとは運搬時に樽を保護するためのものだったそうです。

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樽廻船です。江戸時代に上方から江戸に酒を輸送するために用いられた廻船 (貨物船) です。大きな船では、一度に一升瓶で10万本もの酒を積み、10日から14日かけて江戸に運んだそうです。

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人形を用いた展示とともに、酒造りの工程ごとにビデオの解説もあり、分かりやすく見応えがありました。最後に試飲を美味しくいただきました。

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「菊正宗酒造記念館」~重要有形民俗文化財がずらりと並ぶ

白鶴酒造資料館から歩いて10分足らずで着きました。旧酒造記念館は、阪神淡路大震災によって倒壊したのですが、平成11年に見事に復興オープンしたものです。屋根は本瓦葺、外壁は焼杉板張りで伝統的な酒蔵を偲ばせています。

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館内に入ると、大きな酒林 (杉玉) があり、ヴィッセル神戸のイニエスタ選手が笑顔でお出迎えしてくれました。創業360年を迎えた令和元年にアンバサダー契約を結んだとのことでした。

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展示室入り口です。旧酒造記念館で使われていた樹齢400年以上も経た柱や梁が随所に復活。展示品ほぼすべてが「国指定重要有形民俗文化財」とのことです。凄いです。ワクワクしながら館内へと入りました。

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洗い場です。精米した白米を踏み洗いする所です。大量のお米 (1日約2トン) 3時間かけて真冬に素足で踏んで洗うのだとか。冬は水が冷たいのでつらい作業だったんでしょうね。

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白鶴酒造資料館にあったと同じような窯場、麹室などを経て、ここは (もとば) です。酛とは日本酒の元になり、酒母 (しゅぼ) ともいうそうです。半切り桶に米麹、蒸米、水を入れ、櫂ですり潰して酒酵母を育てます。米、米麹、水から酛を造ることを生酛 (きもと) 造りというそうです。生酛造りで育てた酒酵母は、発酵力が強く、辛口のお酒の元となるのだとか。

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(ふなば) です。熟成した醪を酒袋に詰め、酒槽 (さかぶね) に重ねて絞ります。搾り上がった酒は白く濁っているので1週間かけて固形分を沈殿させるのだそうです。いろんな工程があって、試行錯誤があって、今日のような美味しいお酒が生まれたんですね。

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昭和初期の酒蔵の前庭の様子です。殺菌のため大量の大桶が天日に干されています。大桶がこれだけ並ぶと壮観です。

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文化財収蔵庫です。入室は禁止ですが、窓越しに写真を撮りました。右手前には酒造に関する番付表のようなものが見えます。中央には桶や樽などの酒造用具が展示されています。一番奥には昔の美人画ポスターがあります。どれも貴重な品々なんでしょうね。

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こちらの展示コーナーにもイニエスタさんがいました。「ワタシモ  ノミマシタ  キクマサムネ  トッテモ  オイシイデス  デモ  ノミスギハ  イケマセン」と言っているように感じました。1階には試飲コーナーもあって、美味しくいただきました。

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外観も趣があり、江戸時代から変わることなく培い続け、伝え継いだ酒造りの熱い思いを感じたひと時でした。

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